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鋼(はがね)の成分表

刃物のほとんどに、安来鋼が使われている。一部の作品に、玉鋼、スウェーデン鋼、英国生まれのフエ二ックス鋼なども登場するが、これらは特殊なケースといっていい。日本各地の鍛冶たちは、例外なく安来鋼を使って刃物を鍛えている。安来鋼とは、日立金属株式会社の安来工場で生産された鋼を指す。

日立金属株式会社の前身は、明治23年に安来の地に設立された雲伯鉄鋼合資会社である。この会社は、出雲特産の砂鉄から鉄を得る和鋼造りの技術を持っていた。昭和12年、日立製作所と合併、昭和31年、日立金属工業株式会社設立、日立製作所より鉄鋼部門を譲り受け営業開始、昭和42年に日立金属株式会社に社名が変更された。

安来工場のある鳥根県の出雲地方は、昔から玉鋼の産地として有名であった。真砂と呼ばれる純度の高い砂鉄が、山や川に豊富にあり、川の流れと鉄の比重を利用する「カンナ流し」という単純にして巧妙な方法によって、大量に採取することができた。さらに、山また山の豊かな森林資源は、製鉄に必要な木炭の尽きざる供給源となった。

「たたら製鉄法」によって生産される出雲の玉鋼は、きわめて良質で、日本刀を始めとする刃物用の素材として、全国に出荷された。巨大な溶鉱炉を用い、鉄鉱石から鉄を得る近代的な製鋼法が導入されると、日本各地に存在した「たたら炉」は、急速に衰退していった。しかし、出雲の玉鋼だけは、昭和初期まで生き残った。

雲伯鉄鋼合資会社を吸収した日立金属株式会社は、こうした地の利を生かし、真砂を原料とした和鋼の製法を受け継ぎ、今日に至っている。

現在、日立金属株式会社安来工場では、特殊な鋼材だけを生産している。高速度工具鋼やダイス鋼など、他の機械や工具、製品を作るための機械用の鋼をはじめ、特殊鋼ロール、みがき帯鋼などの二次加工品で、一般の鋼材よりもはるかにシビアーな性能を求められるものである。

通常、製鉄所というと、巨大な鉱炉を連想するが、安来工場のそれは、せいぜい一トンから十数トン程度の小型のもので、天を摩する巨大な装置はない。それというのも千種類を越える少量多品種の鋼を生産しているからである。鉄は、ブレンドする成分と量を変えることによって、品種は無限に変わっていく。成分と量の組み合わせも、また無限である。

日立金属株式会社から供給される鋼は、前記の通り、安来鋼と呼ばれている。刃物に使われる炭素鋼としては、白紙、黄紙、青紙の各シリーズがある。白紙、黄紙、青紙の名称は、別に深い意味があるわけではなく、同じサイズに仕上げられた製品を、どの鋼か簡単に見分けられるように、目印として色紙を貼りつけていたことにとるのである。

安来鋼の各シリーズについて、科学成分表を示しておく。いずれも優れた鋼材で、世界的な評価を得ている。
なお、日立金属株式会社の供給する刃物鋼材は、たとえば、カミソリの素材でいえば、全世界で40%を越えるシェアを占めている。お馴染みのジレット、シック、ウイルキンソンなど、グローバル・ブランドの刃材は、いずれも安来鋼である。

さて、高い硬度を持つ白紙は、包丁、小刀、鉋、剃刀などに使われ、これに対し、相対的に炭素量の少ない黄紙系は、ハサミ、鋸、農具、たがねなどに使われることが多い。青紙はタングステンを含む高級鋼で、良質の刃物に使われる。製品価値としては、白紙モノよりも20~50%高くなるのがふつうである。

白紙がよいか、青紙がよいかは、鍛冶職人によって評価の分かれるところで、一概に決めつけるわけにはいかない。熱処理によっても、仕上がりに微妙な変化が現われ、鍛冶職人によってそれぞれに得手、不得手がある、といって悪ければ、相性の善し悪しがありそうである。

白紙、青紙、ともに、仕上がり硬度は、ロックウエル硬度で60以上である。(ロックウエル硬度=先端に半径0.2ミリの丸みをもつダイヤモンドをつけた頂角120度の円錐形の圧子で、鋼材に一定の荷重をかけ、できたへこみの深さによって硬度を表示する。一般にHRCの記号で表示される。)


【鋼(はがね)の成分表】


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※リンおよびイオウは、刃物の切れ味に有害な不純物で、黄紙がやや高い。(日立金属株式会社資料より)

参考書籍
和式ナイフの世界
-火・鋼・技が生む切れ味の秘密-
著者 織本篤資