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鋼(はがね)について

ハサミについての知識を深めるコーナーです。

鋼は刃金

鋼は今では金へんに岡と書きますが、昔は刃金、つまり刃物に使われる金と書いていました。硬くて刃物の役に立つというので重宝がられていました。刃物の代表が日本刀でしょう。日本刀は焼入れによって正宗のような名刀にもなるわけです。鋼(刃金)といえば日本刀、日本刀といえば焼入れというように刃金と焼入れ、つまり熱処理は切っても切れない関係にあります。鋼は熱処理によって生かされるといってもいい過ぎではないでしょう。なませば軟らかくなるし、焼を入れれば鉄かぶとをも切る名刀にもなるのです。こんなに有用な性質をもっているので「鋼(孝)は百工(百行)のもと」ともいわれ、すべての工業の根本をなしています。「鋼は国家の血なり」とまでいわれ、その使用料は一国の文化の尺度にまでなっています。



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鋼の3兄弟

こんなに有用な鋼でも、その生まれを洗えば、ナマクラな鉄や脆いズク鋳物、つまり鍋や釜の鋳物と同じ兄弟分であって、その血統は鉄(Fe)と炭素(C)の合金です。つまり、Cが0のものが鉄(Fe)、Cが多からず、少なからず適当に入っているものが鋼、多すぎるくらいに入っているものが鋳物(鋳鉄)ということになります。FeにCが混ざる割合で、鉄、鋼、鋳鉄の区別ができるのです。その分量はどれくらいかというと下記のようになります。



これでわかるように、鉄はCパーセントが少なすぎて軟らかく、鋳鉄はCパーセントが多すぎて脆く、鋼がちょうど手頃なCパーセントということになるのです。手頃といってもC=0.04~2.1%、つまり0.04/100~2.1/100(重量)ですから、普通の分量からいえば、決して多いほうではありません。軟らかいFeにCがわずか0.04~2.1%入っただけで硬い鋼に変身するから不思議です。
その理由はこうです。FeにCが入るといっても、C単体でFeの中に混ざり合うわけではありません。というのはCはFeと化合しやすい元素ですから、C単体としてFe中に存在することはなかなか難しいのです。そこでCとFeが化合してFe3Cとなるのです。Fe3Cはセメンタイトと名付けられる炭化物で、ちょうどセメントのように硬いので、セメンタイトと名付けられています。これは焼を入れた鋼と同じくらいに硬い物質です。これがFeの中に散在することになるので硬くなるのです。C単体で存在するとすればCは木炭のようなものですから硬くなるはずはありません。しかもC1%はFe3Cに換算すると、15%、つまり、15倍に増力(15人力)されるので、その威力は莫大です。これがFeの中にわずかなCが入っても硬くなる秘密です。



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鋼の種類

鋼はFeにCが混ざったものですが、Cの分量によって、鋼は硬くもなれば軟らかくもなります。Cパーセントによって昔から軟鋼とか硬鋼とか区別されているのです。

C0.15%以下…極軟鋼
C0.2~0.3%…軟鋼
C0.3~0.5%…半軟鋼
C0.5~0.8%…硬鋼
C0.8~1.2%…最硬鋼

また学術的には0.8%Cを境にして

C<0.8%…亜共析鋼
C=0.8%…共析鋼
C>0.8%…過共析鋼

の三つに分類しています。
こういう鋼はFeにCだけが入った鋼、つまりC単味ですから、炭素鋼ともいわれています。人によっては普通鋼ということもあります。JISではC0.6%以上が工具用炭素鋼(SK材)、未満が構造用炭素鋼(S-C材)、特にC0.15%以下は浸炭用の肌焼鋼と区別しています。
炭素鋼にNi,Cr,Mo,V,Wなどの特殊元素が入ると味の素のような作用によって特殊な性質を発揮するようになります。この味の素入りの鋼を特殊鋼といいます。特殊鋼は味の素の種類によっていろいろ有用な特製が現れてくるので、非常に重宝がられています。昔は炭素鋼万能でしたが、今では特殊鋼の全盛時代です。しかし、どんなに特殊鋼がもてはやされても、その基礎になるのは炭素鋼、つまり鋼ですから、鋼のことをよく勉強しておかなくてはいけません。



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鋼の五元素

鋼が FeとCの混ざった合金であることは前に説明したとおりですが、実は正確にいうならば、鋼には炭素(C)のほかに、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、が混ざっているのであって、Cとともにこれを鋼の五元素といっています。五元素の序列は日本では決まっていて、C、Si、Mn、P、S、の順になっています。しかし、アメリカだけがどういうものか、C、Mn、Si、P、S、の順でSi、とMnの序列が日本と違っています。その他の外国は皆日本式と同じです。鋼の血統を調べるときには、まずこの五元素を分析することが常識になっています。いわば五人の侍ともいうべきものです。普通の鋼には下記の表に示す程度入っていて、これが正常の鋼の血統書というものです。





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五元素の作用

鋼に対する五元素の作用、つまり効能は次のとおりです。

炭素(C)

鋼にとってなくてはならない大切な元素で、硬さや強さを増す第一線級です。これがなくては鋼になりません。C1%につき引張強さを約100kgf/mm2増す能力があります。

ケイ素(Si)

強さや硬さを増す元素で、Si1%につき引張強さを約10kgf/mm2増大します。つまり、Cの効能の約1/10というところです。

マンガン(Mn)

焼きがよく入るようになる元素で、値段が安い割合に効き目があるものです。また、鋼に強靱性を与える元素で、最近ハイテン(高張力鋼)と呼ばれている鋼はMnが1.2~1.5%入っている鋼です。

リン(P)

鋼には有害な元素で、冷間_性 、つまり寒い時に鋼を_くさせる嫌な性質があります。集団結合(これを偏析といいます)する性質が強いので、含有量は少ないことが必要なのです。そこで普通0.03%以下というように他の元素とオーダーが違っているのです。(約1/10)

硫黄(S)

これもPと同じく好ましくない有害元素で、熱間 性、つまり、赤熱状態のとき くさせる性質がありますので、これまたPと同じように極力少ないことが要望されています。普通は0.03%以下というように微量が規定されています。PとSは鋼にとっては招かざる客というところです。そこで、PとSが少ない鋼は良質鋼といわれるくらいで、PとSが少ないことが鋼の質の善し悪しを決める目安にもなっています。



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特殊鋼とは

鋼に対する五元素の作用、つまり効能は次のとおりです。

ホルモン入りの鋼

炭素鋼に特殊元素、NiやCr、Moなどが入って特殊な性質を示すようになった鋼を特殊鋼といいます。いわばホルモン入りの鋼です。ホルモンの種類によって特製が変化しますので、いろいろな要求や用途にマッチします。つまり、特殊鋼は鋼の花形、スーパーマンといってもいいでしょう。
JISでは特殊鋼を大きく分けて三つのグループにしています。合金鋼(S-A材)、工具鋼(S-K材)、特殊用途鋼(S-U材)の三つです。合金鋼(Alloy steel)は構造用に使われるもので、調質(焼き入れ焼き戻し)したり浸炭肌焼きして使います。特殊鋼の中で、一番用途が広いものです。JISでは約46鋼種が規定されています。工具鋼(Tool steel)は各種の工具に使われる鋼で、合金工具鋼(SKS、SKDなど)や高速度鋼(SKH)などが含まれます。炭素工具鋼(SK)は純粋な炭素鋼ですが、工具鋼として特殊鋼の仲間に入っています。特殊用途鋼は特殊な用途に使われる鋼で、ステンレス鋼(SUS)や耐熱鋼(SUH)、ボールベアリング鋼(SUJ)、ばね鋼(SUP)などが含まれます。



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ホルモンの種類と効用

鋼に対する五元素の作用、つまり効能は次のとおりです。

マンガン(Mn) 

Mnはごくありふれた安い合金元素ですが、極めて重要な、なくてはならないものです。いわばビタミン剤のようなものです。Mnは合金鋼はもとより、炭素鋼にとっても最も基本的な元素の一つです。事実、Mnはどんな鋼にも必ず含まれているのです。Mnが1.2%以上含まれているとマンガン鋼といって、合金鋼の仲間入りをするわけでです。MnはCほどではありませんが、強さと硬さを増し、そのかわり粘さを損なわないので便利なホルモン剤です。また焼が入り易くなるので、調質用鋼には欠かせない元素です。

クロム(Cr)

Crは多才な元素です。なかでも代表的な効能は摩耗に強くなり、サビにくくなることです。ボールベアリング鋼(SUJ)にはCr1%、ダイス鋼(SKD11)にはCr13%、ステンレス鋼にはCrが13%以上入っています。Crはまた焼が入り易くなるし、浸炭を促進する有用な元素でもあります。そのうえ、値段も安い元素ですから、まことに重宝なホルモン剤といえましょう。

モリブデン(Mo)

Moはいろいろな合金鋼に使われて非常に信頼性のある働きをします。その効能も優秀なので、数ある合金元素のなかで最も尊重されている元素の一つです。MoはCr、Mn、Ni、Co、W、Vなどと一緒に使われることが多いのです。Moは鋼の焼入れ性、つまり焼の入る深さを増す第一戦級の元素です。また高温に加熱されたとき、結晶粒の粗大化を防ぎ、高温引張強さを増大します。更にステンレス鋼の耐食性を向上させる能力をもっています。ただMoは国産でなく、値段が高いところが欠点です。

ニッケル(Ni)

Niは鋼の粘さ、つまり耐ショック性を増す有力な元素です。またNiは鋼を熱処理し易くさせるし、耐食性も向上させます。昔は合金元素のトップクラスでしたが、近年は資源的にも少なく、そのうえ値段も高いので首位の座をCrやMoに譲っています。

バナジウム(V)

Vは鋼の結晶粒を細かくし、強靭性を発揮させる効果をもっています。また非常に硬い炭化物をつくるので、鋼の耐摩耗性を向上させます。したがって、強力な切削工具鋼には欠かせない元素です。

タングステン(W)

Wは温度が上がってもなかなか軟らかくならない性質、つまり耐熱性を発揮させるし、また硬くて減らない特性を付与します。Moと作用が同じで、Mo1%とW2%が同じ効能です。工具鋼、特に高速度鋼には絶対に必要な元素で、タングステン系高速度鋼とモリブデン系高速度鋼の二つのタイプがあるわけです。

コバルト(Co)

鋼が赤熱されたときでも軟らかくならない性質、つまり、赤熱硬性を増す有力な元素です。しかし、値段の高いことが欠点です。高級工具鋼や磁石鋼には不可欠の元素です。

銅(Cu)

Cuはあまり多く添加されると鋼が割れ易くなりますが、0.4%くらいまでは空気中でさびにくい性質、つまり耐候性を発揮するようになります。

ボロン(B)

Bはごく微量(0.003%以下)添加しただけで、鋼の焼入れ性を増大し、焼が入り易くなります。この点、非常に能率的な元素といえます。現在、合金鋼の焼入れ性を増すために必ず添加されますし、これをB(ビー)鋼といって鋼種記号にBを付記することになっています。

チタニウム(Ti)

Tiは鋼の焼を入り易くする元素ですが、ステンレス鋼に添加すると耐食性を増す効能をもっています。


以上、各ホルモンの効能を大略説明しましたが、これらのホルモンは一度に沢山入れるよりも、少しづつ種類を多く入れたほうが相乗的に効き目が大きくなるのです。昔の特殊鋼は特殊元素を一つか二つ入れたものが関の山で、Ni鋼や、Ni-Cr鋼が代表的なものでした。しかし、最近では3種類以上のホルモンを少しづつ入れるのが常識で、これをトリプルアロイまたは多元合金鋼と呼んでいます。ホルモンの種類も昔はNiがトップクラスでしたが、今ではMn、Mo、Cr、Bが第一線級になっています。


******** 「鋼のおはなし」大和久重雄 著 より *********



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